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コロナとオリンピックで明け暮れた2021年も、もうすぐ終わろうとしています。年末にあたり、ふだん感じていることを書いてみようと思います。気軽にお付き合いください。
1970年代、私が子どもだった頃、本棚の「家庭の医学」の隣に「スポック博士の育児書」という本があったのを覚えています。1946年以降に売れた部数は何と聖書の次だとか。昔から子育てに悩む人は多かったのですね。その中身をかいつまんで書いてみますが、ちょっとびっくりすると思います。
「個人の自立を促すため泣いても抱っこせず泣かせておくように」「母乳と抱っこに頼り過ぎると大人になってから自立が難しくなる」
そう、今の育児常識とは真逆の指導が正しいとされていたのです。
この育児書に従った子育ての結果、愛着障害や、サイレントベビーが増えたと言われています。もしかしたらおばあちゃんから「抱きぐせがつくからすぐに抱っこしてはダメよ」などと言われた方もいるかもしれません。当時はそれが正解とされていたのですから、分からないものです。もちろん、赤ちゃんが泣いたら思う存分抱っこしてあげて下さいね!
ちなみに、その育児書を参考にして育てられたであろう私は、親や先生の意見を聞かない、自立心というより反骨心の塊のような青年に育ってしまい、大変周囲を手こずらせてしまいました。
ところで、いまは情報が満ちあれていますが、その中から正しい子育て知識を探すのはとても大変だと思います。
子育てのアドバイスで0歳から3歳ですべてが決まる、という言葉を見かけることも多いですよね。やっと出産したと思ったらもう知育?何をやらせたら良いの?と焦ってしまうのではないでしょうか。
あくまでこれは私見ですが、決して3歳までにすべてが決まることは無いと思っています。長年小児科医師をやっていて思うのは、こどもの可能性は誰にも予想することはできない、ということです。
たとえば、学校に行けてなくて勉強も全くやって来なかった子が、20才過ぎに入学した夜間高校のノートを私に見せてくれて「俺、今、勉強してるんだ」と嬉しそうに教えてくれたことがあります。また、乳児の時に命に関わる大病をしてそのあとゆっくりした発達になった子が、成人してから病院にいらして「大好きな家族と一緒に過ごせて毎日とても楽しいです。これからいろいろやりたいことがあります。子どもの頃に助けていただいてありがとうございました。」と挨拶して下さったことがあります。
このように、勉強は何歳になってからでも始めることができるし、病気や怪我で順調な発達や発育とはいかない場合でも大丈夫なんだと、私は子どもたちに教えられました。反対に小さい頃からいろいろ頑張ってやってきた子が、ある時疲れてポッキリ枝が折れたように動けなくなり、こんなはずではなかった、と言っていらっしゃることもあります。こどもに聞いてみると、実は何をやっても別に楽しくなかったなどと告白することも。そんな時はゆっくり休む必要があります。この様に、子ども時代にあれこれできることが将来そのままのペースで行くとは限らないケースもたくさん見てきました。
では改めて子育てに正解はあるか、について考えてみましょう。
私が考える答えは、正解はいつか分かる時が来る、けれどもそれがいつかは人によってまちまち、だからこそ子育ては楽しい、というものです。楽しい=良いことづくめでは無く、山あり谷ありの楽しさと言ってもいいのではないでしょうか。子どもが思った通りに育たない、そんな意外性が私はとても大切だと思っています。
そんな子育てに奮闘されているすべての保護者と、そんな素敵な保護者の方々に日々成長を見守られている“すべての子どもたち”の“笑顔のため”に、これからもミューザ川崎こどもクリニックのスタッフ一同、全力を尽くしてサポート致します。
どうか来年もよろしくお願い致します。
慶応義塾大学病院 小児科、大和市立病院 小児科、埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓科、横浜市立市民病院 小児科、東京都立清瀬小児病院 小児循環器科。
日本小児科学会(小児科専門医)、小児循環器学会、日本外来小児科学会
慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程 修了、慶應義塾大学医学部 小児科、慶應義塾大学関連病院(こうかんクリニックなど)
医学博士、小児科専門医、小児科指導医